授業概要
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1 本科目を履修することにより、どのような知識を学ぶか。
→文化人類学の中心的概念である文化という考え方の歴史を学ぶ。この概念を通した分析の結果を、民族誌の事例から学ぶ。
2 どのような(思考の)技術を体得するか。
→文化は、人間が社会生活を営むうえで自然化した行為の枠組みへの反省を可能にする。文化という考えを学び、それを自らの日常生活においても実践できるようにする。暗黙の了解となっている視点を意識化する技術を学ぶ。媒介について意識できるようになる。
3 この学問の現代社会における意義は何か。
人間は社会生活を営む動物である。だが、社会生活を営む動物のうちでも、人間は特異な生活をおくっている。その特異さとは、社会は文化なくしては成立しないことである。(「個人的文化」という表現は無意味であるから、文化は社会の存在を前提にしている。)つまり、この場合、文化とは洗練された趣味や文芸や芸術などに限定されず、社会ごとに異なった意味の体系を指す。ある社会の成員は、この意味の体系を共有しているからこそ、お互いの行動が了解できるわけである。
比喩としての限界はあろうが、文化は言語のようなものといえる。社会ごとに話されている言語は多様であるが、言語をもたない人間社会は存在しない。ある社会において生まれ育った個人は、その言語を共有している人びとと意思疎通をすることができる。
さて、このように個別的な文化によって成立する人間社会を研究の対象としてきた学問が、文化人類学である。しばしば、文化人類学は他の人文科学系学問と比較し、「さまざまな現象を研究対象としているようだが、その内実がよくわからない学問だ」といわれている。研究対象やその成果の多様性は、学問の活力の証なのかもしれない。本講義では、この学問に独特な視点―研究対象の捉え方、問題の設定の仕方、問題への答え方―を中心に解説したい。
文化人類学はその成立からして、いわゆる「異文化」(学問が制度化された当時は「未開社会」という表現が使われていた)をいかに理解するか、という疑問に拘ってきた。この疑問には、他者に関心をもつ、という前提がある。「人それぞれ」というような無関心とは正反対である。このような疑問は、古代ギリシアの史家ヘロドトスにまで遡ることもできるものの、この講義では、19世紀から20世紀初頭にこの学問の制度化の端緒を見出し、その歴史を紹介する。
それでは、文化人類学はこの疑問―異文化をいかに理解するか―にどのように取り組んできたのだろうか。少し考えれば、この疑問は複雑な様相を呈することがわかる。なぜなら、異文化として対象社会を理解しようとする文化人類学者も、ある社会に生まれ、その社会の文化を(それ自体が文化であるとは)意識せずに暮らしてきた存在だからである。したがって、異文化を理解するとは、対象文化を理解することと、自らの社会の文化――それが理解を可能にすると同時に「誤解」も生むわけである――についての反省を並行しておこなうことを意味する。
この授業では、これまで述べた文化人類学的視点について、その歴史をたどり、解説するのが目的である。その結果として、以下の①~③について学ぶ。①文化とは何か、②文化人類学者が異文化を理解しようとするときの視点には、どのような特徴があるのか、それは他の学問における異文化理解とどこが違うのか、③「未開社会」(と呼ばれてきた)集団に関する研究の成果が、「未開社会」などもはや存在しない21世紀に、私たちにとりどのような意味をもつのか。
最後に、この学問の大学内部での位置づけと注意。さきほど触れたように、文化人類学という学問にまとわりつく漠然とした感覚、捉えどころのなさは、情報が急速に流通する現在、軽減されるどころか、増幅しているようだ。文化人類学という学問について大学入学後にその存在を知る人がほとんどであろう。この学問の制度的基盤は大学にある。大学とは、社会制度の改善を含め、生きるに値する社会を構築するために不可欠な批判的精神を養う場所である。
異文化との接触、接触を通して得た知識の集積それ自体を最終目的とするのではなく、自然化(意識にはなかなか上らないという意味で、身体化)している私たちの生き方を問い直すということが文化人類学のもっとも重要な目的だとすれば、この学問ほど大学の存在意義に近い距離にある学問は他にはないであろう。そして、グローバル化という政治・経済・文化を巻き込んだ世界規模での緊密なつながりを否定できない時代、文化人類学ほどこの時代の要請に応えうる可能性に満ちた学問はないのかもしれない。
残念ながら、21世紀の現在、すなわち脱植民地化、グローバル化が前提である現在、この学問についてアイロニーなしには語れない。つまり、無垢な気持ちで、まったく無反省に、この学問について語り伝えることができない。わたしは文化人類学について講義するとき、この学問の成果や知識の興味深さを伝えるだけではなく、同時にその問題点を、そしてその限界を伝えなければならない、と考えている。
→未知の世界を既知の枠組みへ押し込む(=複雑さを単純化する)のではなく、既知の枠組みを広げる作業を通して未知へと接近する思考の作法は、多様化する世界の複雑さを理解するため、不可欠である。
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This course is an introduction to cultural anthropology; it aims to familiarize students with analytical concepts fundamental to anthropological thinking: among them, the most importnt is that of culture. The students would learn the evolution of this concept as developed in anthropology; they also learn to analyze the everyday exprience through this concept as they encounter other cultural arrangements in ethnographic descriptions.
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キーワード
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文化(概念)、民族誌、相対性、近代、植民地主義、先住民(族)
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授業形態 (項目)
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✔ 講義・演習
□ 実験
□ グループワーク・ペアワーク
□ 学内外実習
□ プレゼンテーション
□ ディスカッション
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授業形態 (内容)
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使用する教材等
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板書、テキスト(紙媒体)、スライド資料(電子媒体)、映像・音声資料
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履修条件等
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履修に必要な知識・能力
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新しい知識、ならびに新しい視点を学ぶ意欲と柔軟さ姿勢。
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到達目標
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No
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観点
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詳細
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1.
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A:知識・理解
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文化概念の歴史を理解する。
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2.
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B:専門的技能
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新しい知識を体系として体得する力。
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3.
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C:汎用的技能
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文化概念を使い、日常の諸側面を分析する。
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4.
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D:態度・志向性
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多様な価値観に開かれた姿勢。
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授業計画
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No
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進度・内容・行動目標
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講義
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演習・その他
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授業時間外学習
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1.
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シラバスによる説明
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◯
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2.
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文化概念の歴史(1)
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◯
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3.
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文化概念の歴史(2):ベネディクトの『菊と刀』
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◯
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4.
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木曜日の授業をおこなう日
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5.
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文化概念の歴史(3)
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◯
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6.
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観点について(1)
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◯
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7.
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観点について(2)
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◯
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8.
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フィールド調査について(1):ボアズ
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◯
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9.
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フィールド調査:博物学と文化人類学との比較
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◯
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10.
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近代的文化人類学:マリノフスキー
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◯
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講義時間の後半に、試験あり。
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11.
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トロブリアンド諸島社会と文化(1)
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◯
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12.
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トロブリアンド諸島社会と文化(2)
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◯
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13.
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21世紀の先住民について(1)
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◯
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14.
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21世紀の先住民について(2)
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◯
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15.
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21世紀の先住民について(2)
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◯
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講義時間の後半に、試験あり。
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16.
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講義のまとめ
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◯
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授業以外での学習にあたって
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シラバスに記載されている「参考文献」から関心のある書物を選び、読解に取り組むようにする。
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テキスト
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太田好信・浜本満(編)『メイキング文化人類学』世界思想社(1900円+税)
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参考書
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指定しないが、シラバスに記載された「参考文献」を利用すること。
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授業資料
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成績評価
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評価方法・観点
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観点No.1
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観点No.2
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観点No.3
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観点No.4
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観点No.5
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観点No.6
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観点No.7
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観点No.8
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備考(欠格条件・割合)
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◎
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◎
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成績評価基準に関わる補足事項
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ルーブリック
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観点:水準
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A(4)
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B(3)
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C(2)
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D(1)
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F(0)
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A:知識・理解
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文化概念の歴史
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B:専門的技能
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新しい知識を体系として体得する力
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C:汎用的技能
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文化概念を使い、日常的実践を分析する力
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D:態度・志向性
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多様性に開かれた姿勢
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学習相談
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添付ファイル
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授業担当者の実務経験有無
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授業担当者の実務経験内容
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その他
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4月09日(講義初日)に、添付ファイルを印刷し、持参すること。
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更新日付
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2019-09-18 20:09:25.043
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